
株式会社地域共育ラボ 吉田由花
「子どもの一歩を、未来へつなぐ。」を掲げ、地域と子どもが共に育つ仕組みづくりに取り組む、株式会社地域共育ラボの吉田由花さん。コロナ禍をきっかけに、農家や企業などの現場を訪れる体験授業を続けてきました。活動を事業として続けたいという思いからSHIFTに応募した吉田さんに、起業の背景や課題、今後の目標について伺いました。
はじめに自己紹介をお願いします
株式会社地域共育ラボの吉田由花です。会社は2026年5月7日に設立しました。大分市佐賀関に住んでおり、家庭教育支援、体験教育事業、共創事業、人材育成の四つの事業に取り組んでいます。
幼稚園勤務を含め、教育や子育て支援には17年ほど携わってきました。これまでの取り組みをまとめたような会社です。
体験型教育の原点は、2020年のコロナ禍でした。子育て支援に来てくださっていたご家庭から、見学遠足や宿泊研修など、子どもたちが体験する場がなくなったという声が上がっていました。同じ頃、漁師である夫の仕事でも、コロナ禍の影響で魚の価格が下がっていました。私自身も漁に関わっていたので、地域の産業が厳しい状況にあることを身近に感じていました。この二つの悩みをつなげられないかと考えたことが、活動の始まりでした。
ある現場では、社員さんから、子どもの頃の体験が、そこで働きたいと思うきっかけになったと聞きました。体験した人にも地域の方にも喜んでもらえ、将来的な関係人口や担い手づくりにもつながる可能性があると感じました。
会社を立ち上げる大きなきっかけの一つは、佐賀関の大火災です。地域の子どもたちから「地域のために何かしたい」という声が上がり、小学校が中心となり、保護者と連携しながら募金活動を行いました。その経験から、子どもたちと地域が共に育つ社会をつくりたいという思いが強くなりました。
体験イベントは続けていましたが、自走できる事業にはなっていませんでした。個人や任意団体としての活動の経験から、会社として継続できる仕組みをつくりたいと考えたんです。
事業内容について教えてください
主軸は、地域や企業の現場へ実際に足を運ぶ「体験授業」です。佐賀関では、漁協の方々と漁業の裏側を知るツアーを行っています。ほかにも、田植えや稲刈り、中津での川遊び、九州電力の施設見学、畜産農家への訪問などに取り組んできました。
私は、地域そのものが資源だと思っています。生産者さんには当たり前の環境でも、子どもたちにとっては未知の学びの場です。地域が抱える課題も、体験や学びの題材に変えられると感じています。
保護者の方も一緒に参加し、地域を知る。その入り口をつくることで、地域と継続的に関わる人を増やしたいと考えています。佐賀関のイベントに参加した親子に再会したとき、「あれから3回来ました」と言っていただいたこともありました。一度の体験から、再び地域へ足を運ぶきっかけが生まれることが嬉しいです。
参加者の居住地域については限定していません。対象年齢はイベントごとに異なりますが、主に幼稚園児から小学生が参加しています。中学生や高校生が、ボランティアスタッフとして関わる形も始まっています。
活動で大切にしていることは何ですか
「共に育つ」という意味での「共育」です。子どもは、誰かに教えられて育つだけではないと思っています。保護者の方にも、子どもと同じ目線で感じ、一緒に育つことを大切にしてほしいと伝えています。
佐賀関の火災のときも、子どもたちが頑張る姿に地域が元気をもらう場面がありました。子どもは育てられる存在であると同時に、地域を支える存在でもあると感じています。
私はこれまでモンテッソーリ教育に長く携わってきました。企画では、参加者が主体的に体験できることを大切にしています。見学するだけではなく、実際に触れ、感じ、参加した人が主役になれるように組み立てています。
体験には危険を伴う場面もあります。どこが危険なのか、安心して参加するためにどんな工夫が必要なのかを考えるのが、大人の役目です。危険な機械は見るだけにするなど、体験の内容に応じてルールを設け、子どもたちの挑戦を支えています。
モンテッソーリ教育では、子どもが自分でできるよう、環境を子どもに合わせて整えることを大切にします。私も、地域の課題を子どもたちが理解し、体験できる形に置き換えていくことが、自分の強みであり、会社の役割だと思っています。
保護者に、意識を変えてくださいと言うことはありません。子どもたちの力を、実際に見て感じてもらいたいんです。子どもを中心に置きながら、参加した大人にも地域の魅力や、子どもを見守ることを届けたいと考えています。
活動を通して、参加した方々にどんな変化がありましたか
最初は緊張して保護者と手をつないでいた子が、体験を通して自分から前に出て、話を聞いたり、「やってみたい」と言ったりすることがあります。終わった後に、保護者から、家に帰ってもずっと体験の話をしていると聞くことも多いです。
魚を食べないと言っていた子が、漁業の体験に参加して魚を食べ、保護者が驚いたこともありました。泳いでいる魚を見て、漁師さんの話を聞き、船に乗る。実際に体験したことで、食べてみようという一歩につながったんです。
発電所を見学した後、お子さんが発電所で働きたいと将来の夢を話すようになったと、保護者から聞いたこともあります。
保護者にも変化があります。干潟の体験で生活排水の話を聞き、日常のごみを意識するようになった方や、体験をきっかけに地域を訪れたり、商品を購入したりする方もいます。
生産者の方からは、親子が楽しむ姿を見て、自分たちの仕事を喜んでもらえてよかったと聞きました。子どもに伝える中で、自分の仕事の良さを改めて感じたという声もありました。
参加した子どもの保護者が、今度はスタッフとして関わりたいと運営に加わってくれることもあります。体験を届ける側の仲間も、少しずつ増えています。
事業を進めるうえでの課題は何ですか
一番の課題は、活動を継続できる事業にすることです。いい活動だと評価していただくだけでなく、選ばれる事業にしたいと思っています。
イベントの収支が釣り合っていても、自分の労力を含めると十分な対価を得られていません。資金や担い手がなくなれば終わってしまう形では、目指す仕組みはつくれません。SHIFTに応募したのも、この課題を解決する方法を見つけたいと思ったからです。
もう一つは、私がいないとできない状態から抜け出すことです。イベントには定員を超える応募やキャンセル待ちが出ることもありますが、受け入れられる人数には限りがあります。
開催できる場所と、運営を担える人が増えれば、参加できる機会も広げられます。大人が責任を持って運営しながら、中学生や高校生も関われる場にしていきたいです。
今後の目標を教えてください
まずはSHIFTを通じて、これまで積み重ねてきた体験教育の取り組みを、継続できる事業の形にしていきたいです。そのうえで、大分でつくったモデルを九州、全国へ広げていきたいと考えています。
私一人では、取り組みを広げることも、目指す社会にたどり着くこともできません。講師の育成にも取り組みながら、同じ思いで活動する仲間を増やし、それぞれの地域で続いていく仕組みにしていきたいです。
佐賀関では、「関のわてらこやプロジェクト」にも取り組んでいます。地域の子どもたちと集まり、地域の中で活動する場をつくっています。
今後は、ほかの地域でも、外から訪れる人を増やすことと、地域の中で育ち合うことの両方を大切にした仕組みをつくりたいです。子どもたちと地域が共に育つ社会をつくる。その思いは、これからも変わりません。