
株式会社アルオ 盧 衍樂(Harold Lo/ハロルド)
香港出身で、約20年にわたりIT業界で経験を積んできた株式会社アルオ代表のハロルドさん。AIを活用し、美術館や観光地の情報を多言語で届けるシステムを開発しています。大分を拠点に地域の課題解決に取り組むハロルドさんに、起業の背景や大分への思い、SHIFTを通じた今後の展望について伺いました。
まずはハロルドさんの自己紹介と事業内容について教えてください
株式会社アルオのハロルドと申します。AIを活用したシステムの開発を行っています。
私は香港出身で、IT業界で約20年間働いてきました。電子商取引や、機器をインターネットにつなぐIoT、アプリの開発など、さまざまな製品やサービスを手がけ、前職ではCTO(最高技術責任者)として、主にIoT開発に携わっていました。
その後、立命館アジア太平洋大学(APU)の大学院で経営学を学び、2026年3月に修了し、MBA(経営管理修士)を取得しました。同年6月24日に株式会社アルオを設立しましたが、サービスの提供は法人設立前から始めています。
事業では、美術館や観光地の情報を、多言語で分かりやすく届けるシステムを作っています。作品や観光スポットの見どころを紹介する「ラクシーガイド(Laxy Guide)」と、ホテルや民泊施設で地元ならではの情報を案内する「ラクシーハブ(Laxy Hub)」の二つがあります。
また、Laxy Hubはすでに初期版を提供しており、別府のAirbnb施設で使っていただいています。
これまで、大分県立美術館(OPAM)の展覧会や、別府市竹細工伝統産業会館、社会福祉法人太陽の家の太陽ミュージアムなどで使っていただいています。
どうして大分を選んだのでしょうか
もともと日本が大好きで、今も妻と一緒に別府で暮らしています。約10年前に旅行で大分を訪れたとき、街の雰囲気や人の温かさ、居心地の良さが心に残りました。
IT業界で長く働いた後、次のキャリアを考える中で、九州に住みたいという思いが強くなりました。それも、APUへの入学を決めた理由の一つです。
APUでは先生方との出会いがあり、その中のお一人に、九州の半導体関連の工場へ連れて行っていただきました。そこで、日本の技術の未来を九州で感じることができました。
新しいアイデアや技術に積極的な企業があり、海外から来た私たちを歓迎してくださる方々もいます。大分、熊本、福岡がつながれば、新しい技術を日本へ、そして世界へ届けられるのではないかと思いました。
技術に携わる人間として、九州でその可能性を広げたい。そう考え、APU大学院を修了した後も大分に残ることを決めました。
事業を始めたきっかけを教えてください
私は日本の文化や歴史が好きで、もっと深く理解したいと思っています。香港の友人たちにも、日本についてもっと知りたいという人がいます。ただ、情報が日本語だけで書かれていると、海外から来た人には十分に伝わりません。
美術館で作品を見たとき、作品名や作者名は分かっても、作者にはどのような背景があるのか、なぜこの作品を作ったのかが知りたいことがあります。展示の説明だけでは、そこまで分からない場合もあるんです。
もちろん、展示室にはスペースの制約があります。詳しい情報が本などに載っていても、すべてを作品の横に掲示することは難しいですよね。説明を作るための費用も関わっているのではないかと思います。
そこで、AIとデジタル技術を使い、必要な情報を、多言語で届ける仕組みを考えました。デジタルなら、もっと知りたい人に、文章だけでなく写真や動画なども使って説明できます。展示の横に載せきれない背景にも触れてもらえることが、その良さだと思っています。
APU在学中には、QRコードを読み込むと、作品の解説を多言語で閲覧できるシステムを作りました。興味や知識に合わせて、異なるバージョンの解説を選べます。
大分県立美術館の「きらめく日本美術 1300年の至宝展」でも使っていただき、別府市竹細工伝統産業会館などにも活用が広がっています。文化や歴史をより深く知りたいという自分自身の思いが、事業の出発点でした。最近では、社会福祉法人太陽の家の「太陽ミュージアム」でも導入いただきました。別府市が共生社会を実現してきた街であり、日本のパラスポーツ発祥の地でもあることを伝える施設です。施設の方からは、韓国からの見学者への案内にも大変役立ったと伺い、うれしく思っています。多言語ガイドを通じて、太陽ミュージアムが伝える歴史や取り組みを国内外のより多くの方に届けるお手伝いができればと思います。
事業を行ううえでどんな課題がありますか
大きく二つあります。
一つは、より多くのお客様と一緒に仕事をし、システムを磨いていくことです。新しいお客様と取り組むたびに、その現場ならではの発見があり、それをもとに改善してきました。
施設や地域が変われば、伝えたい内容も、利用する人が知りたいことも変わります。さまざまな現場で得た知見を活かし、より使いやすく、役に立つシステムにしていきたいです。
もう一つは、お客様が何を必要としているのかを知り、サービスの価値を高めることです。現在は、地図の機能が欲しいという要望をいただいています。今後、開発チームでは、さらに活用しやすいサービスを目指し仮想空間を体験するVRや、現実の風景にデジタル情報を重ねるARの活用も検討していきます。
ただ、機能を増やすだけで良いわけではありません。お客様と話すことで、どのような情報を、どのように届けたいのかが見えてきます。そのニーズに合った仕組みを作るためにも、いろいろな分野の方と仕事をしたいと思っています。

SHIFTでは、どんなことに重点的に取り組みたいですか
まずは、私たちのシステムやアイデアを検証し、実際に求められているものに近づけていきたいです。自分たちが良いと思って作っていても、お客様のニーズとずれている部分があるかもしれないからです。
もう一つは、地域の方々の力になることです。地域には素晴らしいものがあるのに、どう広めればよいか分からない、広告や宣伝に大きな費用をかけられないという悩みがあると聞いています。そうした方々を、AIの力で支えたいと思っています。
特につながりたいのは、美術館などのアートに関わる方や、自治体の観光部門の方です。私は芸術が好きで、大分には竹細工のように魅力的なものがたくさんあると感じています。一方で、海外から来た観光客に向けた情報は、もっと届けられる余地があると思います。
SHIFTでの出会いを通じて、現場の課題を聞き、私たちのサービスを使って何ができるのかを一緒に考えていきたいです。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
私がSHIFTを通じて得たいのは、地域の方々とのつながりです。大分の人や魅力、地域が抱える事業について、自分一人の力で把握するには限界があります。だからこそ、まずは地域の組織や事業者が直面している課題を知り、ともに考えることから、新しい取り組みを生み出していきたいと考えています。
そのためにも、技術の発展だけでなく、地域との結びつきを深めることの両方に力を尽くしていきたいと思っています。
将来的には、Laxy Guideを利用する施設とLaxy Hubをつなぎ、ホテルや民泊での滞在中にも、訪問先の魅力や背景をより深く知っていただけるようにしたいです。宿泊と地域での体験を結びつける仕組みを目指しています。
まず必要なのは、地域の方が本当に何に困っているかを知ることです。自分の想像だけで作ったシステムでは、人の役に立てるとは限りません。実際の課題が分かれば、力になれる方法も見えてきます。
そこで得た知見をシステムの改善に活かすことで、同じような課題を抱えている、別の地域の方にも届けられると考えています。
大分、熊本、福岡、東京と、場所によって困っていることは違います。一つひとつの課題に向き合いながら、大分から他の県へ、全国へ、そして世界へと広げていきたいです。
AIは、観光以外の分野でも活用できます。人の手が足りないところを補い、地域の方々が活動を続ける力になりたい。私が目指しているのは、技術を発展させることに加えて、AIと地域の人をつなぎ、より良い社会をつくることです。